「気候変動に挑む」

2021年から2022年にかけて発表された「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の第6次報告書は、気候変動による影響が深刻化していることを明らかにし、各国に二酸化炭素の排出削減だけでなく、有効な被害低減策を早急にとるように求めています。気候変動と密接に関わる地球温暖化についても、「人間活動が温暖化させたことは疑う余地がない」と、これまでにない強い表現で危機感を示しました。

人間活動に起因する気候変動は、既に熱波や干ばつ、森林火災、豪雨、洪水、海面上昇といった極めて広範囲の悪影響を生態系にもたらしています。同報告書によると、世界人口の4割を超す人々が気候変動による被害を受けやすい状況にあります。産業革命前と比べ、既に気温が1.1度上昇し、これが1.5度を超えると生態系への影響はより深刻になるといわれます。各種試算によると、残念ながら、そのようになる可能性が高いのです。

「一刻の猶予も許されない」状況に置かれた私たちに、いったい何ができるでしょうか。次の世代に、少しでも暮らしやすい地球を受け継ぐために、何ができるでしょうか。まず、地球に何が起きているのかをできる限り正確に理解する必要があります。科学的な理解があってこそ、将来を予測し、有効な予防策や適応策を打ち、被害の緩和が図れるからです。

北海道大学は、長い日本列島の北端に位置し、1876年に開校した札幌農学校を前身とします。設立当時の本学の使命は、北海道開発のための寒冷地農業の技術開発とそれを実践する人材の育成。当初から北海道の大自然に根差した教育・研究活動を行ってきました。その後、総合大学へと発展する過程で、数多くの実験農場や研究林、臨海実験所を設置し、その研究フィールドを広げてきました。特に、世界最大規模を誇る研究林では、温暖化の影響を受けやすい北方林の研究が行われ、低温科学研究所、北極域研究センターでも、北の地の利を生かした特徴的な研究が行われています。加えて、おしょろ丸、うしお丸という2つの実習船を有し、海洋での調査研究も活発に行っています。北海道大学は、常にフィールドで自然と向き合い、実践的な教育研究を行ってきたのです。

フィールド研究に強みを持つ本学では、現在、各分野の研究者が、森林、氷河・氷床、大気、海洋、社会など、多様な角度から気候変動に関する研究を行っています。気候変動のメカニズム、影響、適応策を一つ一つ科学的に検討し、明らかにしようとしています。今回のウェブ企画、「気候変動に挑む Understanding the Impact of Climate Change」では、ほんの一部ではありますが、本学の研究者による取り組みを紹介します。これを読んだ皆様が、気候変動をより深く理解し、明日への行動へつなげて下さることを願っています。

理事・副学長
国際連携機構長
横田篤






企画・制作
北海道大学国際連携機構、社会共創部広報課学術国際広報担当
南波直樹、Sohail Keegan Pinto、Aprilia Agatha Gunawan、川本真奈美

制作協力
株式会社スペースタイム